
「弁護士」という職業は、法律をはじめとする“なにやら難しくてよくわからないこと”を、お客様(相談者)にわかりやすく説明しなければなりません。また、お客様から聞いたことの要点をまとめ、今度は裁判官などの第三者に説明をしなければなりません。このように、どんな弁護士も仕事をしていく中で、自然と「わかりやすく説明する能力」を身につけていくのです。
そこで今回は、現役弁護士ならではの視点から「わかりやすい説明の仕方」のポイントをお伝えします。読者のみなさまは、法律事務所に相談に行った時のみならず、会社の上司や取引先から説明を求められた時や、夫婦で意見が対立した時など、日常生活の中でもぜひ活用してみてください!
■もくじ
【1】事実関係や経緯を説明する場合
① 時系列に沿って説明する
② 主語を明確にする
③ ゆっくりと説明する
④ 簡単な図を活用する
【2】自身の考えや意見を説明する場合
① 結論を先に述べる
② 理由を明確にする
③ 理由に順位をつけてみる
【3】大事なこと
① 相手は事情をまったく知らない人間である
② 疑問や批判と、人格への攻撃を区別する
≪監修弁護士の紹介≫
最後に…
【1】事実関係や経緯を説明する場合

① 時系列に沿って説明する
なんとなく思いついた順に話してしまうと、聞き手は頭の中での整理が追いつかなくなってしまいます。「何から話せばいいのかわからない!」と思った時は、とりあえず時系列に従って説明することを心がけてみましょう。
② 主語を明確にする
主語が抜けてしまう人はとても多いです。主語が抜けていると、ストーリーが聞き手にスッと入ってきません。もちろん、すべての発言に機械的に主語をつける必要はありません。「誰かが誰かに発言した状況」「誰かが重要な行動をした状況」などは、AさんがBさんに対して「~○○と言いました。」あるいは、AさんがBさんに向かって「~○○をしました。」というように、誰が何をしたのか明確に伝えましょう。
③ ゆっくりと説明する
弁護士でも気をつけている人が多いポイントです。自分が知っていることについて話す時、自分が好きな事柄について話す時、緊張している時など、人はついつい話すスピードが速くなりがちです。聞き手は話し手の発言を頭の中で整理しながら聞いているので、話すスピードが速すぎるとついていけません。(そして聞き手は、話すスピードについていけていないことをなかなか教えてくれません。言い出しにくいものですからね…。)
特に「話すスピードが早い!」と他人からよく言われる人は、自分の中で「ゆっくり過ぎないか?」と違和感を持つくらいのスピードで話してみましょう。意外とそれくらいが丁度良いものです。
④ 簡単な図を活用する
人間は視覚から取得する情報が多いと言いますよね。ですので、ホワイトボードや紙を利用できる場面では、簡単な図を活用してみましょう。ビジュアルで情報を共有すると、より一層聞き手の理解が深まります。
【2】自身の考えや意見を説明する場合

① 結論を先に述べる
着地点が不明なままダラダラと話してしまい、「で?結論は?どうしたいの?」なんて言われたことはありませんか?結論と理由を端的に聞きたいだけの聞き手は、結論を明示されないままダラダラと話をされると、不快感を覚えてしまうことがあります。時間がなさそうな上司には、結論を先出しした上で簡潔に理由を述べると良いでしょう。
② 理由を明確にする
自分の意見が決定しているのであれば、その結論に至った理由があるはずです。自分の中で「理由なんてない。なんとなくそう思っただけ。」と考えていても、しっかり考察すると理由が見えてくるものです。通常、人間は理由なく何かを選択することはありません。
当然ビジネスの場面では「なんとなく」という理由は説得力がありません。多少強引でも良いので、理由を明確に示しましょう。
③ 理由に順位をつけてみる
理由が複数ある場合、それぞれの“強さ”は同じでしょうか。「最も重要な理由」が存在する場合には、なぜそれが最も重要な理由であるかを相手に伝えてみましょう。説得力が増しますし、時には問題解決の糸口が見えやすくなることもあります。
【3】大事なこと

① 相手は事情をまったく知らない人間である
なぜ時系列に沿って主語を明確にし、ゆっくりと話さなければならないのか。それは、話し手はすべての事実を知っているのに対して、聞き手は事実をまったく(あるいはほとんど)知らないという点で、情報に大きな格差があるからです。
「相手は自分が知っていることをほとんど知らない人間である」という意識を持ってみましょう。そうすることで、自然と上記のポイントを意識した話し方になり、結果として「わかりやすい説明」になっていきます。
② 疑問や批判と、人格への攻撃を区別する
意見が対立している者に対する説明は、さらに難易度が上がります。人は自らの意見を否定されると不安な気持ちになり、時にはその不安が怒りの感情となって現れます。ここで重要なのは、あなたへの意見への疑問や批判は、あなたの人格を否定するものではないということです。
反対に、自らの発言が相手の意見への批判に収まっているか、人格への攻撃に及んでしまっていないかは冷静に考えなければなりません。双方がそのような意識を持てた時に、対立当事者間であっても「わかりやすい」説明から「わかり合う」ことができるのではないでしょうか。
ライタープロフィール 弁護士 おまめ

この記事は、弁護士 おまめが担当しました。
■東京・埼玉を中心に活動する現役弁護士。
■年間約200名の法律相談を担当。
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